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ツルバダ、HIV予防の薬事承認で何が変わる?【PrEP-プレップ-】

公開日|2024.01.22 更新日|2024.01.23

HIV/エイズ感染症の曝露前予防内服(PrEP/プレップ)に用いられているツルバダ配合錠とデシコビ配合錠のうち、ツルバダ配合錠が、2024年度内にも、日本国内で薬事承認される可能性が高まっています。

そこで今回は、ツルバダ配合錠が承認されることで日本国内のPrEP事情がどう変わるのかを解説していきます。

 

 

もくじ

 

 

 

1.ツルバダ配合錠とは

ツルバダ配合錠とは、エムトリシタビンとテノホビルジソプロキシルフマル酸塩の配合剤を指し、HIV/エイズの治療薬の一つです。

一方でHIV非陽性者が用いた場合には、HIVの感染予防にも高い効果があります。1日1錠の内服を続けることで99%以上の予防効果があるとされ、近年日本でもHIV感染症の曝露前予防薬(以下PrEP/プレップ)としての利用が広がりつつあります。

つまりツルバダ配合錠は現段階において、『HIV治療薬』としては既に日本でも承認されていますが、『HIV予防薬』に用いる場合は、未承認という状態にあるのです。

PrEPについてもっと知りたい方はこちら

 

 

薬事承認とは?

すでに治療薬として薬事承認されているツルバダ配合錠ですが、HIV予防へ適用範囲が拡大する場合にも、再度薬事承認が必要とされています。

 

薬事承認とは、薬機法に基づき、医薬品や医療機器の製造販売を厚生労働大臣が承認することです。承認するのは厚生労働大臣ですが、その前に『独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下PMDA)』という別の組織が、有効性や安全性を審査します。通常、承認申請から承認取得までは1〜2年ほどを要します。

 

なお、承認を受けた医薬品が医療保険の適用を受けるためには、この後さらなる手続きが必要になります。

 

 

公知申請とは?

日本エイズ学会は、厚生労働省に対し、HIV予防薬としてのツルバダ配合錠を日本でも承認するために、公知申請の手順をとってほしいと要望書を提出しました。

この公知申請を簡単に説明すると、有効性や安全性がすでによく知られているお薬に対して、臨床試験をスキップして承認する方法で、よりスピーディに承認を取得できるメリットがあります。

 

要望書を受けて厚生労働省は、2023年11月29日(水)に開かれた「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の中で、ツルバダ配合錠に関して、以下の点に触れました。

 

  1. 〇欧米等6ケ国を含む59ケ国以上で予防薬として既に承認されていること
  2. 〇国内外の診療ガイドラインで暴露前予防に対しての利用が推奨されており、海外を中心に使用実績が蓄積されていること
  3. 〇HIV感染症の曝露前予防に対するツルバダ配合錠の有効性は、医学薬学上認められていること

 

これらを根拠とし、ツルバダ配合錠は公知申請予定のリストに追加されることとなりました。*1

 

 

2.承認されると何が変わる?

2024年にツルバダ配合錠の承認がされた場合、既にPrEPを利用する人、ツルバダジェネリックを利用している人たちの環境はどのように変化するのでしょうか。

 

(1)PrEPの認識が広まる

PrEPは現在、関東を中心に利用者数が増加しつつあります。しかしながら、薬が未承認であるがゆえに利用をためらっている人も多いと思います。*2 

日本国内でツルバダ配合錠が承認されることで、よりPrEPに不安を感じていた人、PrEPを知らなかった人に認識が広がり、利用の気運が高まる可能性が考えられます。

 

(2)ツルバダジェネリックは日本で購入できなくなる

現在HIV予防薬としてツルバダ配合錠を利用する人は、正規品ではなくジェネリック薬を選択する人がほとんどです。それは、正規品のツルバダ配合錠は非常に高価なためです。

ツルバダジェネリックを日本で購入する方法はいくつかありますが、国内でツルバダ配合錠の承認がおりた場合は、その全てのルートで入手が不可能になると考えられます。それは、厚生局が『国内に代替品のない薬剤に関してのみ、輸入を許可する』というルールの元、業者へ輸入許可を出しているためです。

 

(3)ツルバダ配合錠は保険適用になる?

薬事承認がされると保険適用になり、今よりも安価に手に入るようになると思われる方もいらっしゃるようです。しかし、日本の医療保険は、慣習的に予防は適用外であるため、これまで通りPrEPは自費診療での提供体制が想定されると、日本エイズ学会も言及しています。*5

 

 

 

 

3.デシコビ配合錠はなぜ承認されないの?

ツルバダ配合錠が承認されようとしている中、デシコビ配合錠の承認の話が出てこないのはなぜでしょうか。

これは、お薬の使用実績によるものです。アメリカ食品医薬品局(FDA)にツルバダ配合錠が予防目的で薬事承認されたのは2012年でした。一方、デシコビ配合錠の承認は2019年に承認されたばかりで、使用実績に大きな開きがあります。

新薬のデシコビ配合錠が旧薬ツルバダ配合錠にお薬として劣るという意味ではありません。

 

 

4.ツルバダジェネリックが購入できない場合の2つの選択肢

(1)個人輸入する

どうしてもツルバダジェネリックを手に入れたい方の唯一の手段は、自分で使用するために国外から輸入する、いわゆる個人輸入です。*3

 

個人輸入のメリットは、なんと言ってもコストを抑えられることにあります。

一方でデメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  1. 〇品質の保障がないこと(成分分析等を実施しておらず、偽薬などのリスクを排除できない)
  2. 〇輸入に制限(上限一ヶ月分まで)があること
  3. 〇HIVなど、定期的な検査は自己管理が必要になること
  4. 〇オーダーから到着まで二週間ほどかかること

 

また、円安の影響で以前ほど安価に手に入れることはできなくなりつつあります。

見守り検査(PrEPに必要な検査のみ)を受けたい方はこちら

 

(2)デシコビジェネリックに切り替える

現在、ツルバダ配合錠の他に、新薬であるデシコビ配合錠が流通しています。デシコビ配合錠はツルバダ配合錠と同様、HIVの予防効果は99%以上でありながら、ツルバダ配合錠にみられた骨密度の低下や腎機能障害がほとんど起きないとされています。

今回の承認の対象にデシコビ配合錠は含まれていないため、ツルバダ配合錠の承認後もデシコビジェネリックはこれまで通り入手可能であると考えています。

 

また、デシコビジェネリックに切り替えた場合、これまでツルバダをオンデマンドで内服していた方は飲み方に迷われると思います。

当院では、デシコビジェネリックをオンデマンドで内服したい方向けに医師より飲み方や注意点などをご説明し、処方しております。ご希望の方は、診察時にご相談ください。(LINEやお電話など、スタッフでは回答できかねますので、あらかじめご了承ください)

 

 

5.パーソナルヘルスクリニックとPrEP普及への取り組み

以上の理由から、当院では国内で初めてPrEPジェネリックを導入した2019年より、デシコビジェネリックの利用を推奨してきました。利用者の95%がデシコビジェネリックを定期購入していますが、これまでにHIVの陽性者はでておりません。

また、ここ数年でPrEPの認識が急激に広まり、利用者も増加の一途をたどっています。一方で日本におけるHIVの新規感染者は減少傾向がみられており、PrEPの普及が一定の効果を挙げているのではないかといわれています。*4

今後も必要な人が無理なくPrEPを続けられる仕組みづくりが必要であると私たちは考えます。

 

 

参考文献

 

 

 

この記事を監修した医師

塩尻大輔

パーソナルヘルスクリニック院長
塩尻大輔

国立国際医療研究センターのエイズ治療・研究開発センター(ACC)にて、HIV(エイズ)・性感染症の診療や研究活動に従事。HIVやPrEPをはじめ、性感染症・性病検査に関する科学的根拠に基づいた正しい知識と、患者様の心に寄り添った医療を提供します。